棘(とげ)

N0WHereNowhere2005-10-23



「エリートは溜めが効かない」。心に刺さるひと言はいつまでたっても忘れないものだ。日常生活を営む上で、激痛が走るわけではない。どちらかといえば痛みは感じない。しかし、ふと気を抜き、指に棘が刺さっているのを見つけると、急に嫌な痛みが指先に在ることに気付いてしまうことがある。「溜めが効かない」はそんなひと言だ。▼もう6年前になるだろうか。松戸の寺院で叔母の一周忌が営まれた。叔母の旦那は、高卒で苦労して、都内の赤坂Tホテルでたたき上げた人物であった。親戚の中でも歯に衣着せぬ物言いは有名であった。その彼が、私がNHKを辞めたことについてチクリとやった。▼なぜ、今日まで棘が抜けずに、たまに思い出したように痛みが在ることにハッとするのか。それは、その指摘のとおりであることを私自身が、それこそ痛いほど分かっているからである。分かっていてもできないことを正面切って言われれば、それこそ斬捨て御免を被った気分になる。▼台風をやり過ごす知恵が私にはなかった。ましてやその厄介なものの正体が台風であると思っても見なかった。打って出ればなんとでもなると、釈迦に出会う前の孫悟空よりも尊大な気持ちを持っていた。ストレスを溜めずに済んだが、引き換えにお金は貯まらず、長い間偏向を矯めることもままならなかった。▼子どもが4人、そして休職。随分と我慢が身にしみてきた。それでも、わたしは懲りない。「溜めを効かせる」ことは、生きるために「日和ること」と思えてならない。そして、「日和ること」は私の人生をつまらないものにする、と。▼せめてもの譲歩は、相手の価値観に乗って、ガツンと食らわし、自分はさも関係ない風に涼しい顔をするくらいだろうか。▼昨日の続きになるが、またその世界に戻るのかと思うと気が引けるが、しばらくは我慢だろうか。私をして「エリート」と評したのは相手の価値観。私は自分のことをちっともエリートだとは思っていない。ただのバカであり、破滅的な男である。「溜めが効く」あなたの方が、よっぽどエリートじゃないですか。羨ましい。今でも、叔母の旦那にはそう思っている。▼ドミノみたいなものですね。我慢に我慢を重ね、ドミノを並べる。さて、俺はこれだけ並べた。しかし並んだドミノを見ていてもしょうがないわけです。並べたドミノはさっさと倒し、ギネスブックに名前を残しましょう。▼自分で自分を笑う余裕が出てきたのは良いとは思いますが、やはり私は懲りない男なのです。しばらく指に刺さった棘は抜けそうにありません。

私の財産告白

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