デフ

N0WHereNowhere2006-05-15


右耳の聴力がかなり落ちている状態が続いている。すると音の平衡感覚がなくなる。▼前からふたり連れが歩いてくる。しかし、その話し声が後ろから聴こえてくる感覚に襲われる。思わず後ろを振り向くと誰もいない。▼右耳ひとつ聴こえなくなったくらいで、どーってことないわいと思っていた。そんな考えは誤りであることが分かった。▼かつて、福島智さんと電話でお話したことがある。今は確か東大の助教授か。当時は都立大の院生だったか、助手だったか。いわゆる「盲ろう者」である。どのように電話で話したのかは内緒。▼彼は最初からブラインド&デフであったわけではない。▼体の機能はお互いがバランスを取りあっているらしい。ある機能を失うと別の機能が補うという。そんな補完関係でバランスをとる。▼逆に、ある機能を失うとそれに引きずられるように正常だった機能も失われてしまうことがある。福島さんの場合、ブラインド・デフ、どちらが先だったかは定かではないが、彼の体は失うというバランス関係に入った。▼しかし、そこが人生の妙である。結局肉体的に失ったものは、別の物で補完された。それが今日の福島智である。▼明日、朝7時に耳鼻科に行く。私の右耳は、人生はどうなりましょうか。▼「失う」という別れ。別れによる痛みが大きければ大きいほどに、広くぽっかり空いたスペースには、「得る」という出会いが待っている。失う・得る、別れる・出会う。それが年輪のように現れ、それぞれの人生の風合いをかもし出すのだろう。


福島 智
1962年神戸市生まれ。 9歳で失明、18歳で失聴し、全盲全ろうとなる。日本の盲ろう者として初めて大学進学(東京都立大学人文学部)を果たす。1992年東京都立大学大学院博士課程人文科学科教育学専攻修了。同大学人文部助手、金沢大学教育学部助教授などを経て、2001年4月より東京大学先端科学技術研究センター助教授(バリアフリー分野)。現在、障害者・高齢者のニーズと先端科学技術を相互作用させる新しい学際的研究の取り組み「バリアフリープロジェクト」を推進中。

指先で紡ぐ愛

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盲ろう者とノーマライゼーション (明石ライブラリー)

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