「居酒屋兆治」

西池公園のそば、地下に降りるとそこには居酒屋がある。「山形」という。きのう、そこの雇われマスターが亡くなった。心筋梗塞だそうだ。一月ほど危篤状態にあったという。知らなかった。しばらく池袋にも、当然この店にも遠ざかっていたもので。享年三十一。▼そもそもこの店は山形は鶴岡出身のママさんが長年やっていた。数年前、疲れたので止めた。ステディーに尽くすためであったという。ちなみお相手は国税出の税理士だ。▼意外と儲かっていたらしい。ママがよかったからな。山形県人特有の物静かな、しかし厚い人情があった。料理もうまかった。▼店を手放すのはもったいないと、聖公会のフィクサー（松戸のＫ氏とＯ元チャプレン）が経営に乗り出した。そして、雇われマスターとして白羽の矢が立ったのがＫ君だった。お父上は志木の教会の牧師だ。▼彼のもうひとつの顔は道化師だった。カウンター越しの彼は言っちゃ悪いが店なんぞやる気はなかった。ついでにやってる感じだった。ついでに職員やってる私がよくダブった。▼ナンチャって職員やってる私は未だに道化師にすらなれずにいる。▼彼の死を聞くに及び、不遜ではあるが本音を言えば羨ましいと思った。一ヶ月の危篤はしんどいが、心筋梗塞でいけるならいいとすら思った。不健全かね。▼もう、あのけだるいカウンター越しの会話ができないのが寂しいといえば寂しいな。

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